大判例

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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)326号 判決

自作農創設特別措置法第九条第一項は農地の所有者に買収令書の交付をすることができないときは、同条第二項各号に掲げる事項を公告し、令書の交付に代へることができる旨を規定している。即ち、同条に従つて、適法に右事項の公告がなされたときは、令書の交付と同一の効力を生ずるものと解すべきである。しかして、令書の交付があつた以上、所有者は買収処分を知つたものとみとめられるのは当然であるから、同法第四七条の二前段所定の出訴期間(その処分のあつたことを知つた日から一箇月以内)は、公告が適法になされた場合は、公告の日からこれを起算すべきものと解するを相当とする。そうして、所有者がこの公告を知らなかつたということは、その出訴期間の進行を妨げるものでないことは、公告という制度の性質上当然であるといわなければならない。従つて、又、原審が所論の証拠申請を採用しなかつたことを以て、所論のように審理不尽の違法ありとすることはできない。

同第二点及び第三点について。

原審の確定したところによれば、別所村農地委員会は、上告人に本件土地の買収令書の受領方を通知し、昭和二四年二月一四日頃上告人は、同委員会のおかれてある同村役場内で、同委員会書記から買収令書の受領方を促されたにかかわらず、係争中であるからという理由で、その受領を拒絶したというのであつて、このような場合には通常、さらに令書を上告人方に持参しても、上告人においてこれが受領を拒絶するであらう意思は明白であるとみるべきであるから、かかる場合は、同法第九条にいわゆる「令書の交付をすることができないとき」にあたるものというべく、従つて、被上告人がした本件公告は適法であるといわなければならない。所論は、原判決の右事実の認定を争い、かつ、同条の解釈について別異の見解を主張するものであつて、採用することはできない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 霜山精一 栗山茂 小谷勝重 藤田八郎 谷村唯一郎)

上告代理人大塚俊勝の上告理由

一、原判決には審理不尽の違法がある。

上告人は昭和二十四年三月九日当時別所村に於て兵庫県報を取つてゐたのは村役場のみで、上告人は勿論之を取つてをらず、又右役場への県報到達の日も発行日より遙か遅れ、然も一般村民中県報閲覧の為村役場に赴くものは絶無に近く、前記日時頃上告人が村役場に行つたことの無い事実を証する為、上告人の親友であり同村助役の地位にある小舟一雄を証人として訊問を求め、及兵庫県庁に対し調査の嘱託を請求したのであるが、原審は之が証拠調を為さず、昭和二十四年三月九日附兵庫県報記載の本件公告は特別の事情の認められぬ限り、同日頃上告人に於て知つたものと推定するのが相当であるとし、特別事情の存在を認むるに足る証拠が無いとした。

然し前記上告人の立証趣旨が認めらるるに於ては、上告人提出の他の証拠と相俟ち右推定が覆へさるるものと考へらるる次第であり、原審に於て審理不尽の違法あるものと謂ふべきである。

二、原審判決には判断遺脱の違法若くは採証の法則及事実認定の原理に反する違法がある。

第一審証人志原治の証言、第一、二審に於ける上告人の供述を綜合すれば、買収令書が兵庫県から別所村農地委員会に来た時は、書類受領者に協力を求めて取りに来て貰い、再三督促しても取りに来ない場合には農地委員会の職員が受領者宅に持つて行くことになつてゐる事実、上告人はその供述する様な理由で農地委員会に取りに行く協力をしなかつた事実、他日上告人が別所村役場へ行つた時役場と農地委員会とが同一建物内にある為、農地委員会の書記である志原治から口頭で買収令書の来てゐることを知らされたが上告人はその述ぶるところの理由により進んで之を受取らなかつた事実、其の後農地委員会から上告人に対し買収令書の交付に付、何等の措置を採らず、上告人は其の他に買収令書の受領を拒絶する何等の意思表示をしたことのない事実が認められ(経験則上)且つ之を認むべきである。

然るに原判決は上告人が農地委員会書記から買収令書の受領方を促がされたが、係争中であるからというのでその受領を拒絶した事実を認め其の他の事実を認めてゐない、それだから別所村農地委員会が買収令書の適法な交付を仕様としても、上告人に於て予め之が受領を拒絶したかの様な印象を与ふる事実認定を導き出すに至つたのであり、以上の様な判断は控訴審が事実認定に付専権を有するとの理由で黙過せらるべきものではない。

三、原判決には自作農創設特別措置法第九条の解釈を誤つた違法がある。

同法第一項但書中「令書の交付をすることができない」ときといふのは土地所有者の住所不明の為、買収令書を手渡しすることもまた郵便により送達することもできない場合をいふのであつて、右に所謂「買収令書の交付」とは必ずしも買収令書の手渡を意味するものではなく郵便によつて送達しても同令書が土地所有者の手中に帰すればよいものと解すべきものである(昭和二四年(オ)第一〇一号同年七月二六日最高裁判所第三小法廷判決御参照)、本件に於て別所村農地委員会は買収令書を現実に上告人に手渡せんとしたことも、上告人の住所に郵便其の他の使者を以て送達せんとしたこともない、単に「別所村農地委員会に買収令書が来てゐるから受取りに来て貰ひたい」及び「買収令書が保管してあるから受取つては什うか」と文書或は口頭による交付の提供をした丈けであり、手渡を拒絶したことも送達不能の事実も全くないのである。

即ち別所村農地委員会は買収令書の交付に付、相当な手段を尽してゐないのであるから本件公告はその前提要件を欠き当然無効であり、少くとも取消さるべきものである。

四、昭和二四年三月九日附兵庫県報掲載の買収公告は特別の事情の認められぬ以上同日頃上告人が知つたものと推定するのが相当であるとする、原判決の論旨は違法である。

当時の兵庫県報がその発行の日頃別所村に到着することは考へられず、仮にその日頃別所村役場に到着してゐたとしても、県報を取てゐない上告人がその頃県報掲載内容を知つたとする根拠はなく之を推定すること自体が吾人の社会通念乃至経験則に反し違法である、自作農創設特別措置法第四十七条の二の規定によるも行政処分に対する不服の訴の提起は、該処分のあつたことを知つた時から起算し、知らなくても二ケ月を経過したならば訴が起せぬことを明かにし、現実に知ることを基礎にしてゐる。公告は便宜手段である(前記最高裁判決)、斯様な性質をもつ公告に推定の効果を与ふる何等の根拠がないのである。

仮に原判決の様な推定を与ふべきものとしても、之は極めて軽い意味のものであつて、上告人の主張並立証した程度を以て容易に覆へされたと為すべきものである、其処に採証或は事実認定の法則違背がある。

之を要するに原審判決は事件の真相を洞察することなく独善的、形式的に処理せんとして幾多の違法を敢て為したものであるから、速に之を破毀せられ実質的審理を受くるの機会を与へられ度、本件上告理由を開陳する次第である。 以上

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